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わが国を取り巻く環境は、戦後復興から高度経済成長を経て、充足の時代から充実の時代へと向かう転換期を迎えている。
人口増加から人口減少・少子高齢社会、高度成長から安定成長、重厚長大産業からソフト・高付加価値型の産業、そして、大量消費社会から
リサイクル社会へと大きく転換しつつある。
人々のライフスタイルや価値観はいっそう多様化・複雑化している。ひとりひとりの価値観やニーズが尊重される一方で、ITの急速な発展・
普及によってコミュニケーションにおける相互の許容性が求められている、さらにコミュニティについても、これまでの地縁・血縁型から
NPOやボランティアといった同じ目的・志向を持った人々の新しいタイプのコミュニティが形成されつつある。
また都市の量的な拡張をめざした「都市化の時代」から、質的な充実・洗練が求められる「都市の時代」へと、都市に求められる時代の
ニーズも変化しつつある。すなわち、人口や経済成長といった定量的指標を重視するのではなく、そこに住む、そこに通う、そしてそこを
訪れたいと思う人々がいだく期待感、充実感といった定性的指標の向上が求められている。
時代の転換期を迎え、また都市の活力が低下していくなかで、今後、大阪は何を求めていくべきなのか。これまで大阪は都市として経済的に
規模を拡大、成長・発展に向けて邁進してきた。しかし、もはや量的な拡張、あるいは成長・発展を指向した競走の時代は終焉し、質的な競争の
時代を迎えている。これからの大阪は、内発的・自発的に成長していくという志を持ち、新しい都市の姿を世界に向けて発信することを
めざしていくべきである。
転換を好機ととらえ、みずからを変えていく勇気が必要である。 |
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より遠くを見通すならば、大阪は、地球への貢献を考えるべきであろう。これからは「美」という言葉に象徴される価値に拠り所を置き、
世界へ貢献する方向を「美しい日本」の建設ととらえ、21世紀の基本方針とすべきであろう。
むろん「美しい日本」の実現は容易ではない。そのためには政治や経済、教育など、すべてのシステムを根幹から改めることが必要だ。
効率を重視する中央集権から、地域ごとの価値や判断を重視する地方分権へ、東京一極集中から地方への分散へ、受験教育から人間教育へと
すべてを切り換えていかねばならない。根本的には、これまでの「効率第一主義」を改め、「自然との共生」や「精神的な豊かさやゆとり」に、
私たちの価値観の重心を移していくべきである。そのためにも文化を重視し、市民参加やボランティアに重きをみる人間尊重の社会の達成を、
はかることが前提となる。
もっとも、真の意味での「美しい日本」となるまでには、おそらくは21世紀いっぱいの時間が必要であろう。21世紀初頭は、
「美しい日本」に向けて着実に歩みを踏み出す時期として位置づけたい。
理想を実現するためには、段階的な指針が必要である。まず大阪は、近畿圏の先導者として「美しい関西」の実現に向けて、第一歩を
踏み出すべきである。さらに、より長い視野をもって、「美しい日本」に向けて、先頭にたつことが望まれる。
歴史を顧みるならば、大阪はかつて、「煙の都」などと呼ばれた工業都市であった。大阪には「モノづくり」の伝統があり、
それが20世紀においては工業立国の原動力となった。だからこそ、その後、環境を改善する技術を、他都市以上に進歩させてきた。
これからは、環境に負荷を与えない製造システムの実現、さらには商品の耐用年数を長くするなど、「モノづくり」の姿勢をも改めて
いくべきだろう。先人の苦心のあとに想いはせるならば、この都市ほど「美しい関西」、そして「美しい日本」を牽引するに、
ふさわしい都市はない。 |
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